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京都家庭裁判所 昭和50年(家イ)1098号 審判 1975年10月17日

本籍 福岡県大牟田市

住所 京都市

申立人 田中栄子(仮名)

国籍 米国

住所 米国ニュージャージ州

居住地 京都市

相手方 ルイス・プレストン

申立人と相手方間の昭和五〇年八月四日神戸市生田区長宛届出にかかる婚姻が無効であることを確認する。

理由

一  本件申立の要旨

申立人と相手方は主文記載の婚姻届(以下本件婚姻、又は届出という)をなしたものなるところ、もともと申立人と相手方は言語が十分通せず、いわゆる国際結婚をしようということになつたものの、申立人、相手方双方共に確定的意思なくして本件届出をなし、ついで確定的婚姻意思のもとに米国法の要求する正式挙式を昭和五〇年九月七日あげようとしていたが、これまでの間に申立人、相手方共に意見の相違と意思の疎通不十分のため、確定的婚姻意思まで固まらぬままに、挙式をとりやめてしまつた。以上の次第で、本件届出時には未だ確定的婚姻意思がなかつたものであるので、本件婚姻は無効であるから、戸籍訂正の必要上その確認を求める。

二  昭和五〇年九月二二日当庁における調停期日において、当事者間に主文同旨の合意が成立し、その原因である前項記載事実の存在についても当事者間に争いがない。そこで必要な調査をとげたところ、申立人の戸籍謄本、相手方の外人登録証、米国副領事発行の結婚合意証明(Certificate of Witness to Marrige). 申立人および相手方の各の審問結果、調査官の調査報告書によれば、申立要旨の原因事実の外、つぎの事実が認められる。すなわち、

申立人は、これまでに坐禅のために時々来日し、今回は昭和五〇年一月から二ヶ年の予定で同目的のために来日している相手方と、友人のパーティにおいて知り合い、相手方が申立人の職業である絵画創作を尊重してくれる意思をもつていた関係上、意気投合し、相手方より結婚を提唱し、申立人も応じたものの、両人は言語が余り通じず、常に意思疎通十分でなく、しかも、相手方は子供を数人もちたく考えており、申立人はこれに反対の子供不要の考え方をもつていたが、相互に多忙のため、十分に意思の疎通をはかることをなしえないままに、相手方は米国の結婚については立会人のある挙式と結婚しうる資格を証明する許可状がいるので、昭和五〇年九月七日に挙式の予定を立て、その準備的許可状をうる程度のつもりで、申立人と合意の上この程度の意思すなわち、確定的に固まつた婚姻意思のないままに申立人は主文記載の届出をなし、相手方は米国領事館に許可状をうるつもりで、右結婚届をした旨申出で資格証明をえようとしたところ、同領事館からは結婚証明が交付された。相手方は、このような状態の意思を確定的意思に高めえないままに、申立人との結婚生活に入ることに迷いに迷い、結局挙式四日前に、結婚と挙式を取りやめる旨申立人に申出で、申立人も本件届出帰途の相手方の状態から同人が果して将来、真実婚姻するつもりであるか否かに疑念をいだき、相手方がノイローゼ気味ではないかと考えていていたため、当然の経過として了承し、双方は婚姻予定の意思を放棄した。なお、申立人、相手方のこれまでの接触は言語のみで、それ以上の相思相愛の結婚直前の当事者に予想されるような身体的接触にまでは未だ全く至つていなかつた。

以上のとおり認められる。ところで、本件調停審判の管轄は日本にあると解すべく、法例一三条一項により、婚姻の要件は夫、妻各自の本国法によるべきであるから、まず妻たる申立人についてみると、前記認定事実関係によれば、申立人も相手方のいう米国方式による婚姻を考えていたこともあり、本件届出時には末だ確定的婚姻意思を有しなかつたものと推認できる。従つて、夫たる相手方につき、その本国法による要件充足を検討するまでもなく、本件婚姻は全体として無効という外ない。よつて、家事調停委員北川敏夫、同八木登美の意見をきいた上、上記合意を正当とみとめ、これに相当する審判を主文のとおりなすこととする。

(家事審判官 杉本昭一)

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